ミラクルがやってくる―エベーヌの大旋風

ミラクルがやってくる―エベーヌの大旋風
青澤隆明(音楽評論)

エベーヌ四重奏団はたぶん、当代最強のバンドのひとつだ。ストリング・クァルテットとかクラシック音楽とかいう範疇だけでみるのではないから、たぶん、と念のためつけ加えたけれど、遠慮なくいえば、もっとも勢いと実力のあるバンドのひとつと言えるだろう。

エベーヌ四重奏団がすごいバンドだってことは、ジャンルをかまわず、ひとたび彼らのパフォーマンスを体験した音楽好きなら、すぐに認めるはずだ。弦楽四重奏は作曲家たちの高度な音楽思考の実験のフィールドであるし、しかも4つの同族楽器によるタイトな編成の集中力と密度は、圧倒的な燃焼力とテンションを注ぎ込むのに格段の強みとなる。

エベーヌ四重奏団がなによりバンドらしいのは、リーダーシップがユニットとしての4人全体にあることだ。みんなおしゃべりで、雄弁に楽器を鳴らし、それぞれに幅広い音楽への関心があり、個々のキャラクターがはっきりしている。なのに、四重奏を組むと、塊としての一体感と生命が強力に漲る。ハイドンでもベートーヴェンでもフランス近代でも、20世紀の多彩な楽曲でも、それは変わらない。というより、どの曲に入り込むときも、きっぱりといまの自分たちの音楽として演奏する喜びと、聴き手と真剣に分かち合おうとする熱に溢れている。

さて、2015年に新メンバーを迎えたエベーヌ四重奏団最初の大冒険がベートーヴェン・チクルスというのもすごいが、今年は後期手前のop.74(※)とop.95にフォーカスが当てられる。全体のプログラムは、2つのニ短調曲、モーツァルトのK.421で1780年代前半とハイドンの第76番(※)で90年代後半を、そしてベートーヴェンの2作で19世紀最初の10年までを辿り、得意のフォーレ(※)で1920年代前半へ飛ぶと、モンク、ミンガスでモダン・ジャズへ踏み込み、ブラッド・メルドーで私たちの同時代をみつめる。ロックにもブラジル音楽にも分け隔てなく取り組む彼らだが、こうしたチューンになると、4人の演奏のムードはぐっと艶やかにラウンジっぽくなる。どこかフィルム・ノワールみたいなスリル、もっと言えば、きな臭さや悪っぽい感じもあるが、ふと思い出せば“エベーヌ”って黒檀のことだった。そして、黒というのは、どんな色も混ざり合わすマジカルなカラーである。  

前回の来日のとき、「エベーヌ四重奏団はどんな場所?」ときくと、メンバーは口々に答えた、「家族」、「ラボ」、「想像力の源泉」――なにより先に、「ミラクル!」と。私たち聴き手にとっても、まさにそうだ。”Come together, right now Over 4e!”

(※)10/7東京公演<クラシック・プログラム>で演奏。

 

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